きれいな夜景が見えるある山の山頂に
数名ずつのいくつかの団体があった。
みな『ピロイニの財宝』を探しているのだという。
それに目をつけたテレビ局がある企画を立てた。
その名も『ピロイニ宝探しツアー』だ。
「何月何日の満月の夜、某山山頂にて
『ピロイニ宝探しツアー』を開催。
君もこの夢の宝探しに乗り遅れるな!」
局の人間の誰もがこの企画に酔いしれ
その成功を信じて疑わなかった。
ところが何日経っても誰も応募してこない。
こんなにいい企画が失敗するはずがないと
当日の夜、山頂に行ってみると
そこには多くの人が集まっていた。
「なんだ、いるじゃないか」
テレビ局は、そこにいる人たちに
この企画がいかに素晴らしいものかを説明し
その進行を偉そうに説明した。そして
団体別にゼッケンを渡し、アナウンサーは
「さあ、スタートだ!」と言った。
そこにいた人たちは「スタートだ!」の
号令を聞くとすぐさま山を下りていった。
それを見てテレビ局人は「大成功」だと思った。
ところが朝になっても誰一人
山頂には戻ってこなかった。
実はその日山に集まった人たちは
他県から夜景を楽しみにやってきた人たちだった。
もちろんテレビ局の企画など知らなかったので
テレビ局人を名乗る偉そうな人たちを不審がり
夜景を満喫することもなく、山を下りたのだった。
『ピロイニの財宝』というのは
その山から見えるきれいな夜景のことで
その夜景を鑑賞することを『探す』と言うのだ。
地元の人の間ではそれは常識で、だから誰も
テレビ局の呼びかけに応募してこなかったのだ。
つまり『ピロイニ宝探しツアー』というのは
そのことを知らなかったテレビ局の
勘違い企画だったわけだ。
翌日、待ちぼうけを食わされたテレビ局人は
みな風邪を引いたという。
2010年11月04日
2010年11月05日
『しんた』という名の薬
・・・あるアンケートサイトに
―『しんた』という名の薬を買ったら
高額の賞金を差し上げます。―
という記事が書いてあるのをみつけた。
そこでグーグルなんかを利用して
必死に探すのだが、見当たらない。
「そんなものないやん」と
再びそのサイトを開いてみると
そこには賞金をもらった人の名前が
いくつも連なっているではないか。
そこには知り合いの名前まで書いてあった。
「やっぱり『しんた』薬はあるんだ」
そこで今度は実際に薬局に行って
その『しんた』薬なるものを探し回る。
だけど見つからないんだな。最後には
外国の薬局にまで探しに行くのだが
そこでぼくは薬剤師と間違えられる。
ある大きな薬局にいた大富豪の黒人客から
「しんた薬はありませんか?」と
片言の英語で尋ねられた。
ところがぼくは慌てもせずに
「ああ、しんた薬ですね。
その薬ならここにありますよ」と
『しんた』と書いたポリ容器入りの薬を
埃だらけの棚の中から出してきて
その大富豪の黒人客に手渡した。
「へえ、わりと手は白いんだな。
それにしても品のいい顔をしている」
そんなことを思っていると
窓から光が差した。・・・
―『しんた』という名の薬を買ったら
高額の賞金を差し上げます。―
という記事が書いてあるのをみつけた。
そこでグーグルなんかを利用して
必死に探すのだが、見当たらない。
「そんなものないやん」と
再びそのサイトを開いてみると
そこには賞金をもらった人の名前が
いくつも連なっているではないか。
そこには知り合いの名前まで書いてあった。
「やっぱり『しんた』薬はあるんだ」
そこで今度は実際に薬局に行って
その『しんた』薬なるものを探し回る。
だけど見つからないんだな。最後には
外国の薬局にまで探しに行くのだが
そこでぼくは薬剤師と間違えられる。
ある大きな薬局にいた大富豪の黒人客から
「しんた薬はありませんか?」と
片言の英語で尋ねられた。
ところがぼくは慌てもせずに
「ああ、しんた薬ですね。
その薬ならここにありますよ」と
『しんた』と書いたポリ容器入りの薬を
埃だらけの棚の中から出してきて
その大富豪の黒人客に手渡した。
「へえ、わりと手は白いんだな。
それにしても品のいい顔をしている」
そんなことを思っていると
窓から光が差した。・・・
2010年11月07日
個性
個人でやっている中古車屋的、かつ
屋台感覚的なライブハウスだった。
そこにぼくは一人で乗り込んでいった。
そこにはいかにもミュージシャンですよ
というような、長髪鼻髭の店主がいた。
「歌わせてもらえませんか?」
「えっ、歌ですか?」
「やっているんでしょ?」
「歌なら、OOとかXXでやってますよ。
そちらでやられたらいいじゃないですか」
「ここではやってないんですか?」
「ええ、やってませんよ」
「やっていると聞いてきたんですけどね」
「いや、正直言うと、おたく
こういう所に向いてないと思うんですよ」
「向いているとか、向いてないとか
やってみないとわからないじゃないですか」
「わからないって、あなたの場合個性がねぇ・・」
「個性って、そんなふうに髪を伸ばしたり
鼻髭を生やしたりすることが
あなたのいう個性なんですか?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「格好だけの個性を、個性と勘違いしている
人がいる店なんて、まっぴらだ!」
そう一喝して、ぼくは店を出た。
屋台感覚的なライブハウスだった。
そこにぼくは一人で乗り込んでいった。
そこにはいかにもミュージシャンですよ
というような、長髪鼻髭の店主がいた。
「歌わせてもらえませんか?」
「えっ、歌ですか?」
「やっているんでしょ?」
「歌なら、OOとかXXでやってますよ。
そちらでやられたらいいじゃないですか」
「ここではやってないんですか?」
「ええ、やってませんよ」
「やっていると聞いてきたんですけどね」
「いや、正直言うと、おたく
こういう所に向いてないと思うんですよ」
「向いているとか、向いてないとか
やってみないとわからないじゃないですか」
「わからないって、あなたの場合個性がねぇ・・」
「個性って、そんなふうに髪を伸ばしたり
鼻髭を生やしたりすることが
あなたのいう個性なんですか?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「格好だけの個性を、個性と勘違いしている
人がいる店なんて、まっぴらだ!」
そう一喝して、ぼくは店を出た。
2010年11月25日
蛇のような顔をした女
・・・ドライブ中にガソリンがなくなった。
あいにく現金の持ち合わせがなかったので
カード払いにすることにした。ところが、
この町にはカードの使えるスタンドが
なかなか、なかなか見つからない。
ようやく見つけたスタンドは、まるで
50年代のアメリカ映画に出てきそうな
古ぼけた造りのそれだった。・・・
・・・「すいません」と何度か叫んでみた。
が、なかなか係員が出てこない。
「他を探してみようか」と思った時だった。
「はーい」という低い声がした。
出てきたのは蛇のような顔をした
40歳前後の女性だった。
彼女はぼくの注文を聞くでなく
一人で勝手にしゃべり出した。
「お待ちしておりました」
「えっ?」
「少し胴体が短くなったような気がします」
「何のことですか?」
「これもあなたのせいですよ」
「何でぼくのせいなんです?」
「あなたがなかなか来なかったからです」
蛇女はそう言ってニヤッと笑った。・・・
あいにく現金の持ち合わせがなかったので
カード払いにすることにした。ところが、
この町にはカードの使えるスタンドが
なかなか、なかなか見つからない。
ようやく見つけたスタンドは、まるで
50年代のアメリカ映画に出てきそうな
古ぼけた造りのそれだった。・・・
・・・「すいません」と何度か叫んでみた。
が、なかなか係員が出てこない。
「他を探してみようか」と思った時だった。
「はーい」という低い声がした。
出てきたのは蛇のような顔をした
40歳前後の女性だった。
彼女はぼくの注文を聞くでなく
一人で勝手にしゃべり出した。
「お待ちしておりました」
「えっ?」
「少し胴体が短くなったような気がします」
「何のことですか?」
「これもあなたのせいですよ」
「何でぼくのせいなんです?」
「あなたがなかなか来なかったからです」
蛇女はそう言ってニヤッと笑った。・・・
2013年04月17日
電柱
あれは隣の会社の駐車場に電柱が
転がっているのを見つけた時だった。
その時、なぜかぼくはその電柱が
無性に欲しくなり、その持ち主と
交渉して、退職金と引換えで
一本だけ買うことにしたのだった。
そして仕事を辞めた日にお金を払い
「後日取りに来る」と言って電柱は
そのままにしておいた。ところが
数日後取りに行ってみると、電柱が
なくなっているではないか。そこの
社員に聞くと「見たことない」と言う。
「いやいやそんなことはないでしょう。
けっこう大きな電柱だったんですよ。
見たことないことないでしょう」
「見たことないものは見たことないです。
当社で取扱っている物でもないですし」
結局電柱は見つからないままだった。
あれから何年経つのだろう。
いまだに電柱は見つかっていない。
まあ、それは今となってはどうでもいい。
問題は『持ち主は一体何者だったのか』
ということと『何であの時ぼくは電柱が
欲しくなったのか』ということにある。
転がっているのを見つけた時だった。
その時、なぜかぼくはその電柱が
無性に欲しくなり、その持ち主と
交渉して、退職金と引換えで
一本だけ買うことにしたのだった。
そして仕事を辞めた日にお金を払い
「後日取りに来る」と言って電柱は
そのままにしておいた。ところが
数日後取りに行ってみると、電柱が
なくなっているではないか。そこの
社員に聞くと「見たことない」と言う。
「いやいやそんなことはないでしょう。
けっこう大きな電柱だったんですよ。
見たことないことないでしょう」
「見たことないものは見たことないです。
当社で取扱っている物でもないですし」
結局電柱は見つからないままだった。
あれから何年経つのだろう。
いまだに電柱は見つかっていない。
まあ、それは今となってはどうでもいい。
問題は『持ち主は一体何者だったのか』
ということと『何であの時ぼくは電柱が
欲しくなったのか』ということにある。
2017年01月26日
2017年01月29日
ドライブの朝
綿密に計画を立てたドライブだったけど
車を出すはずのあいつが予定時間を過ぎても来ない。
何度電話をかけても出ない。
一時間経ってもあいつは来ないので
仕方なくぼくの車を出すことにした。
とりあえず集まったメンバーを車に乗せて
ぼくは家の戸締まりをしていたのだが
その間に色々と野暮用が入ってしまい
なかなか車までたどり着かない。
ここでも三十分程時間がかかってしまった。
「一時間半の遅れだ」と焦ったのがいけなかった。
文庫用の書棚に足がぶつかってしまい
安定感のない書棚がゆっくりと倒れてきた。
とっさに手で押さえ倒れるのは食い止めた。
だが、かなりの量の本が落ちてしまった。
本を戻すためにまたもや時間を食ってしまう。
ようやく文庫本の片付けが終わった時
トイレを我慢していたのに気づく。
トイレを終えて駐車場へ行こうとした時だった
なぜか出発が遅れているのを知らないはずの
あいつが予定時間から二時間近く遅れて現れた。
「ちょっと用があって、今日は行けなくなった」
行けなくなったのなら、わざわざ来なくていい。
電話一本で済む話じゃないか。もっと早い時間にな。
困ったことにこいつは言い訳魔だったのだ。
連絡が遅れた理由をクドクドとしだした。
そのためにまた時間を食ってしまう。
『本当に間の悪い奴だ』
そう思いながらぼくは目を開いた。
車を出すはずのあいつが予定時間を過ぎても来ない。
何度電話をかけても出ない。
一時間経ってもあいつは来ないので
仕方なくぼくの車を出すことにした。
とりあえず集まったメンバーを車に乗せて
ぼくは家の戸締まりをしていたのだが
その間に色々と野暮用が入ってしまい
なかなか車までたどり着かない。
ここでも三十分程時間がかかってしまった。
「一時間半の遅れだ」と焦ったのがいけなかった。
文庫用の書棚に足がぶつかってしまい
安定感のない書棚がゆっくりと倒れてきた。
とっさに手で押さえ倒れるのは食い止めた。
だが、かなりの量の本が落ちてしまった。
本を戻すためにまたもや時間を食ってしまう。
ようやく文庫本の片付けが終わった時
トイレを我慢していたのに気づく。
トイレを終えて駐車場へ行こうとした時だった
なぜか出発が遅れているのを知らないはずの
あいつが予定時間から二時間近く遅れて現れた。
「ちょっと用があって、今日は行けなくなった」
行けなくなったのなら、わざわざ来なくていい。
電話一本で済む話じゃないか。もっと早い時間にな。
困ったことにこいつは言い訳魔だったのだ。
連絡が遅れた理由をクドクドとしだした。
そのためにまた時間を食ってしまう。
『本当に間の悪い奴だ』
そう思いながらぼくは目を開いた。
2017年02月15日
2017年02月17日
2017年02月20日
2019年07月20日
2019年08月09日
遠い灯りの夢
街からちょっと離れた場所に、えらくキラキラときらめいている平屋の建物がある。普通の体育館の、二倍程の大きさがあり、駐車場も広くとってある。それが何の施設かを、ぼくはまったく知らなかった。
ある晩のこと、そこが何か知りたくて、仕事帰りにぼくはそこに行ってみた。いくつもの大きな窓が四方を囲み、そこから光が漏れている。キラキラはその光だったのだ。
建物の中に入ってみるとかなり広く、たくさんの人がいた。そこには幾人かの知った人もいる。そこでぼくはその中の一人を捕まえ、この建物が何なのかを聞いてみた。すると彼は、
「え?何にも知らないのか」と言う。
「ああ。遠くからここを見ると、いつもキラキラしている。それが気になって来てみたんだ」
「おまえ大丈夫か?」
「え、何が?」
「ここは斎場だよ」
「斎場って?」
「そう、火葬場だよ」
「ええっ?」
ぼくは慌ててそこを出た。そして少し離れた場所からその建物を見たのだが、なぜかキラキラは消えていて、人の気配もなかった。
ある晩のこと、そこが何か知りたくて、仕事帰りにぼくはそこに行ってみた。いくつもの大きな窓が四方を囲み、そこから光が漏れている。キラキラはその光だったのだ。
建物の中に入ってみるとかなり広く、たくさんの人がいた。そこには幾人かの知った人もいる。そこでぼくはその中の一人を捕まえ、この建物が何なのかを聞いてみた。すると彼は、
「え?何にも知らないのか」と言う。
「ああ。遠くからここを見ると、いつもキラキラしている。それが気になって来てみたんだ」
「おまえ大丈夫か?」
「え、何が?」
「ここは斎場だよ」
「斎場って?」
「そう、火葬場だよ」
「ええっ?」
ぼくは慌ててそこを出た。そして少し離れた場所からその建物を見たのだが、なぜかキラキラは消えていて、人の気配もなかった。
2020年03月19日
2020年04月21日
猫に生まれ変わった夢
ということで猫になったわけだが・・
「えっ?」
どうしてぼくは、
猫になったなんて思うんだろう。
元々猫だったよなぁ。
そういえば昔、いや、
ついこの間までだったか。
もっと目線の高い所で、
今みたいな地を這う生活とは違った生活を
ぼくはしていたような気がするんだけど。
あれは何だったんだろう。
夢だったのかなぁ。妄想だったのかなぁ。
それにしても腹が減った。
コンビニでなんか買ってこようかな・・
「ん?」
コンビニって何だったっけ。
思い出せない。
「えっ?」
どうしてぼくは、
猫になったなんて思うんだろう。
元々猫だったよなぁ。
そういえば昔、いや、
ついこの間までだったか。
もっと目線の高い所で、
今みたいな地を這う生活とは違った生活を
ぼくはしていたような気がするんだけど。
あれは何だったんだろう。
夢だったのかなぁ。妄想だったのかなぁ。
それにしても腹が減った。
コンビニでなんか買ってこようかな・・
「ん?」
コンビニって何だったっけ。
思い出せない。
2020年05月26日
雨の臭いのこもる教室
雨の臭いのこもる教室で、ぼくは授業を受けていた。
授業の内容はおろか、その科目が何であるのかすら
わからないまま、その場所に置かれていたのだった。
「何でこんな場所にいるんだ。雨の臭いのこもった
教室の時代は、何十年も昔に終わってるはずなのに。
今さらこんな場所にいる必要なんてないじゃないか。
一刻も早くこの湿気った場所から逃げ出さなければ。
このままこの教室に居続けると人生が狂ってしまう。
授業が終わったら直ぐにこの教室から出てしまおう」
雨の臭いのこもる教室で、ぼくは机の上に肘をつき、
講義を聞くふりをしながらノートの角に地図を書き、
教室の時代から抜け出す計画を立てていたのだった。
授業の内容はおろか、その科目が何であるのかすら
わからないまま、その場所に置かれていたのだった。
「何でこんな場所にいるんだ。雨の臭いのこもった
教室の時代は、何十年も昔に終わってるはずなのに。
今さらこんな場所にいる必要なんてないじゃないか。
一刻も早くこの湿気った場所から逃げ出さなければ。
このままこの教室に居続けると人生が狂ってしまう。
授業が終わったら直ぐにこの教室から出てしまおう」
雨の臭いのこもる教室で、ぼくは机の上に肘をつき、
講義を聞くふりをしながらノートの角に地図を書き、
教室の時代から抜け出す計画を立てていたのだった。