前の会社にいたとき、楽器販売の担当をしていた。
よく学生(特に高校生)が遊びにきていたが、その中で特に目をかけていた奴がいた。その才能はすばらしいものだった。
長渕にあこがれていたようだが、曲作りなども独自のものがあって、ぼくは将来を楽しみにしていた。
彼は高校を卒業して、長渕と同じ大学に入ったが、卒業したのか中退したのかわからないままに音信不通になった。
それが何年かしてひょっこりぼくの前に現れた。
「しんたさん、いい話があるんですよ」とぼくが休みの日に連絡してきた。
近くのファミレスであったが、そのいい話というのが、あのマルチ商法で有名なAというところの話だった。
彼は、いかにAがいいところかということを資料を見せながらぼくに説明し、「決してネズミ講なんかじゃない。ちゃんと商品を販売するんだから。しんたさん、一緒にやりましょうよ」と言った。
なんかうさん臭さを感じていたぼくは、「おれは別にしたいことあるけ」と言って断ったが、執拗にぼくに絡み付いてくる。
「したいことも金がないと出来ないでしょう?」「きれい事言ってもやっぱり金ですよ」「金があれば何でもできるんですよ」などと御託を並べていた。
結局ぼくは断ったが、その後何度か会社に訪ねてきて、近況報告をしていった。
「ぼくは今、その辺の企業の部長以上に稼いでますよ」「天神の近くのマンションに住んでますよ」とか自慢話ばかりしていた。
会社の他の従業員にも声をかけていたようだが、だんだん彼は誰にも相手にされなくなっていった。
自慢話をする彼の目はどこか寂しそうだった。
その後、ぼくは会社も変わり彼と会うことはなくなったが、「今どうしているんだろうか?」と思うことがある。
「金、金・・・」に走った彼は、それを使う側にいる「人」というものを舐めてしまい、何よりも大切な「友情」とか「人の和」という、何ものにも代えがたいものを失ってしまった。
その後も何度かその類の話をぼくに持ってくる人がいたが、そのつどぼくは断っている。
そして、そういう人たちとは、その後の付き合いをやめるようにしている。
「そういう人と友達になりたくない!」というのが一番の理由である。
2001年05月20日
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