昭和43年はグループサウンズの絶頂期で、タイガース、テンプターズ、スパイダース、オックス、カーナビーツ、ゴールデンカップス・・・。小学5年生のぼくの目に、彼らはまぶしく映っていた。
一番心を奪われたのは、ジュリーやピーのいたタイガースで、ファンレターなんかも送っていた。
そのタイガースの『花の首飾り』が大ヒットした、その年の5月のことだった。母の会社の慰安会に、クレージーキャッツが来るということで、家族で見に行こうということになった。
ところがその日は、市民会館でタイガースのコンサートがあったのだ。そこでそちらの方に行きたいと、しつこく母に頼み込んだ。
「タイガースのどこがいいんね。どうせ市民会館に集まるのは、ミーちゃんハーちゃんばかりやないね。クレージーでいいやろう」
結局母に振り切られ、渋々クレージーを見に行った。
植木等がステージの上で、『スーダラ節』を唄っている。ぼくはそれを打ち消しながら、心の中で『花の首飾り』を唄っていた。
カメレオン
会社の帰りにスーパーに寄ったら、見ず知らずの人から、
「納豆はどこですか?」と聞かれた。
「店の人間ではないですよ」と言うと、
「あっすいません」と言って、その人は向こうに行った。
こういうことはよくあることで、電気屋でラジカセの説明を求められたり、書店のコミックコーナーで宗教書のありかを尋ねられたり、銀行のATM前で機械が壊れていると文句を言われたり、初めて行ったスナックでマスターと呼ばれたり、通りがかりの葬儀屋の前で葬儀の時間を聞かれたりする。
これはきっと、ぼくの風貌がカメレオンのごとく、その場に溶け込んでしまうせいだろう。
だが、お役所、税務署、学校などでは、その能力は発揮されないようで、一度も声をかけられたことはない。それはきっと、そこが自分の興味のない場所だからなのだろう。
しかし、その解釈でいけば、ぼくは葬儀に興味を持っているということになるわけか。
案外心のどこかに、そういうものへの憧れがあるのかも知れないな。ちょっと複雑な気分だ。
「納豆はどこですか?」と聞かれた。
「店の人間ではないですよ」と言うと、
「あっすいません」と言って、その人は向こうに行った。
こういうことはよくあることで、電気屋でラジカセの説明を求められたり、書店のコミックコーナーで宗教書のありかを尋ねられたり、銀行のATM前で機械が壊れていると文句を言われたり、初めて行ったスナックでマスターと呼ばれたり、通りがかりの葬儀屋の前で葬儀の時間を聞かれたりする。
これはきっと、ぼくの風貌がカメレオンのごとく、その場に溶け込んでしまうせいだろう。
だが、お役所、税務署、学校などでは、その能力は発揮されないようで、一度も声をかけられたことはない。それはきっと、そこが自分の興味のない場所だからなのだろう。
しかし、その解釈でいけば、ぼくは葬儀に興味を持っているということになるわけか。
案外心のどこかに、そういうものへの憧れがあるのかも知れないな。ちょっと複雑な気分だ。