吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2018年10月

立飲み屋で知り合ったおっさんが
元GSに会わせてやると言うので
ぼくらはいそいそとついて行った。
そこは飲み屋から数分の所にある
醤油臭の染みこむ昭和長屋だった。

中にいたのは半禿長髪の爺さんで、
サイケな出で立ちで言葉の端々に
「おれは業界人だぜ」を匂わせる。
ぼくらは爺さんがキザっぽく語る
自慢話を延々聞かされたのだった。

残念なことにその爺さんはおろか、
爺さんが所属していたと自慢する
『ザXXXズ』というバンド名も、
『◇◇湖の誓い』という代表曲も、
そこにいた人は誰も知らなかった。

夕方になると工場のある海側から
風に乗って変な臭いがやってくる。
五時を早く過ぎているから、もう
工場は稼働してないはずなんだが、
なぜか鍋の取っ手が焦げるような
不自然な臭いが辺りを埋め尽くす。
そして臭いは曇天風景と符合して
ぼくの心の奥で鈍い痛みに変わる。

仕事は休みの延長だとぼくは
思っています。だからいつも
心はラフな状態になっている。
もちろん服装は分けているが
バッグは同じものを利用する。
ところがあれもこれも必要と
手当り次第に詰め込むために
仕事の日はバッグが重くなる。
中でもタブレットが重いので
少し小さなのに変えようかと
ただ今思案中なのであります。

夜になると駐車場に子猫が来る
という噂が立って、近所の人が
エサを与えにくるようになった。
猫が愛狂しい仕草で応えるので
見物客がどんどん増えていった。
それがトラブルのもととなった。

客が車の出入りをさえぎったり
猫がエサを食べきれずに残す為
翌朝はカラスまで群がる始末だ。
付近に険悪なムードが漂い始め
利用者の訴えを聞いた管理者は
駐車場の閉鎖まで口にしている。

今日は肉屋さんのセールです。
狭い駐車場は必死な買物客で
朝早くからいっぱいなのです。
ごったがえしておりますです。
運転自慢のお年寄り様たちが
縦横無尽に車を操っています。
たいへんお上手なもんだから
たいへん苦労をしております。

ぼくたちはこんな仲だったんだね。
そしてこのまま流れていくんだね。

たしかに月日は流れているけれど
あの時の気持ちは持ち続けていて、
きっとこれこそが真実の恋なんだ
きっとこれこそが永久の愛なんだ
と、ぼくは信じていたんだけどね。

ぼくたちはこんな仲だったんだね。
そしてこのまま流れていくんだね。

ぼくが声をかけても知らん顔をし
適当にあしらっている君の心根を
どうもぼくは見誤っていたようだ。
きっとあの頃の若さが君のことを
理想の人と持ち上げたんだろうね。

ぼくたちはこんな仲だったんだね。
そしてこのまま流れていくんだね。

そろそろ雨が降る頃だから
今すぐここを出てしまおう。
店員は一瞥をくれたのみで
いらっしゃいませの一声も
ぼくらにかけてこなかった。
目当ての商品もなかったし
もういい加減にいいだろう。
そろそろ雨も降ることだし
今すぐここを出てしまおう。
何も買わず去ってしまおう。

きっとあいつは走ってくる。
砂煙を上げ滑り込んでくる。

ベンチはヒッティングから
スクイズサインに切替えた。
ベース上で土を払っている
あいつの目に覚悟が見えた。

一点ビハインドの九回の裏
あいつを生還させなければ
この一戦が引退試合になる。
優勝なんて望んでないけど
出来ることなら一試合でも
多く野球をしたい。これが
チームみんなの思いなのだ。

だからあいつは走ってくる。
砂煙を上げ滑り込んでくる。

ピッチャーがこちらを向き
投球モーションにはいった。
同時にあいつが走り出した。
球が外に大きくそれていく。
バットがそれを追っていく。
球はミットの中に収まった。
後戻れないあいつの勢いが
ホームに滑り込んできた──

破れた畳部屋にある寝床に
夢食う猫が棲みつきまして
まったく夢が見れんのです。
毎晩夢見る頃に現れまして
ニャアとひと声鳴くのです。
すると夢は吹き飛ばされて
ニャアとともに消えていく。

何を言っても知らんぷりして
したい放題のネコを見て人は
こう思っているのであります。
『無知で身勝手な生き物』と。

畜生扱いのネコだけど、実は
人間の言葉もその人の性格も
社会の動きもこの国の未来も
恐らくは宇宙の仕組みだって
何もかもわかっているのです。

人間と出会った太古のネコは
その能力をさらけ出していた。
人間の話し相手になってくれ
未来を教えたり力を与えたり
願いを叶えてくれたりもした。

ところが人間はそれを利用し
凶暴化してしまった。ネコは
それはダメだと諫めたのだが
何を言っても知らんぷりして
好き勝手をするようになった。

それ以来ネコは人間のことを
こう思うようになったのです。
『無知で身勝手な生き物』と。
そして互いに「この馬鹿」と
横目で見ながら生きています。

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