吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2013年11月

やっちゃんはお寺の息子だ。
中学までは付合いはよかったが
高校に入ってからギターに狂い
学校から帰ると誰と遊ぶでもなく
ひたすらギターを弾いていた。
夢はもちろんミュージシャンで
寺を継ぐことなど考えてなかった。
ただただひたすらミュージシャン
クラプトンみたいなギタリスト。
ギター一本で世界を変える、
そんなことばかり考えていた。

月日が流れてやっちゃんは
家を継いで、お寺の住職になっている。
ミュージシャンへの道を
どうして断念したのかを
彼は決して語ることはない。
巷では、音楽に熱くなれない奴だとか
ギターの腕が中学生より酷かっただとか
極度の臆病者で一歩を踏み出す
勇気が持てなかったのだとか言われている。

だけどぼくたち友人は
それは違うと確信している。
音楽への情熱は並々ならぬものを持っていたし
プロが唸るほどの腕を持っていたし
やっちゃんは臆病者ではない。
コンテスト総なめの事実がそれを実証している。

ではなぜ彼がギターを断念したのかというと
仏の縁のほうがミュージシャンのそれよりも
強かったからに他ならない。
そもそもお寺の子として生まれたことが
そのことを物語っている。つまり
彼の出生が仏の導きだったということだ。

かつてギターを弾いた手で、やっちゃんは今
合掌し、木魚を叩き、大きな鐘を突いて
音楽している。

地デジ化は、
昨年だったか?
一昨年だったか?
エコポイントは、
一昨年だったか?
その前だったか?

お千代さんが亡くなったのは
今年だ。それはわかる。
しかし、キャンディーズの
スーちゃんが亡くなったのは
いつだったか?

「その当時スマホがあったら、
余計な出費をせずにすんだのに」
と思う品物が多々ある。

例えばギターチューナーだが、
現在使っているヤツは
80年代に数千円出して買った物だ。
当時はこの数千円が普通で
決して高いとは思わなかった。
ところが今となってはその数千円が高い。
なぜならスマホのアプリはタダだからだ。

しかもスマホだと常に携帯しているので
飲み屋などに飾りで置いてある
ギターを突然弾きたくなった時に重宝する。
このタダは安い。

夜遅く家に帰っていると、
後ろから「コツコツ」という靴音が聞こえてきた。
その音がずっとついてくる。

『さて、男だろうか?女だろうか?』と、
ぼくは思いながら歩いている。
だけど振り返ることはしない。
いや、怖ろしいんですよ。
一度、得体の知れないものから、
追いかけられた経験があるもんでね。

『ああ、やっぱりそうか』
しばらくすると音は止んだ。
あの時と同じだ。「コツコツ、コツコツ」

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