吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2013年04月

どこまでの愛なのかは知らないが
彼女は彼を愛しているようだ。
一方彼がどうなのかというと
それが何にもわからない。こちらは
そのなれそめすら知らないのだから
愛の重さ推し量ることが出来ないのだ。

わかっているのは彼は彼女よりも
ずっと年が上で、彼女は彼よりも
ずっと年が下だということだ。
つまり二人は今風に言うと
年の差カップルということになる。
これがまた愛の重さを隠してしまう。

とりあえず、二人の愛の重さが
いかほどのものかはわからないが、
この先どう展開するのかもわからないが、
ただ今言えることが一つだけある。
それは二人っきりでカラオケに行っても
盛り上がらないだろう、ということだ。

ヤツはいつも徒党を組んで
この街を歩いていた。
眼光鋭く光らせては
周りを威嚇してまわり
歯向かうものには
躊躇せずに食いついた。
おかげでいつも傷を負って
家に帰ってきていたのだった。
ところが何があったのか、

ある日突然それがなくなった。
ヤツの中で何かが変わったのだ。
きっと何者かが随行していつも
自分を守ってくれていることに
ヤツ自身が気づいたのだろう。
それを知ると人は優しくなる。
ずっとずっとずっと強くなる。
それでヤツは殺伐とした
心の闇から解放されたのだ。

おそらく生まれてから物心つくまでは
ただ自分という存在を覚えているだけで
特に時間を意識したことはなかった。

時間を意識しだしたのは小学校入学からで
そこから中学校を卒業するまでの時間が
今までで一番長かったような気がする。

その後の十年間は実に衝撃的な出来事が
次から次に起きていた。かなり時間を
意識したものだが、その記憶は残っていない。

それからの十年は時間との闘いだった。
時間を意識しすぎて吐き気がしたほどだ。
ここで時間の意識が極まった。

そして五十歳になる日まで、ダラダラと
心のこもらない出来事が目の前を駆け抜けた。
時間はいつも居眠りに当てていた。

あれから五年が経っている。時間の中で
生活しながらも、なぜか時間に縛られず、
逆に支配出来ている。そういう歳になったのだ。

無精な髭を生やした男が二人
乱れたベッドの前に座り込み
ジーっと一点を見つめている。
彼らは仕事をすることもなく
何度も何度もカードを切って
黒いジョーカーを探している。
一年に何度目かの努力の末に
黒いジョーカーを見つけては
ふたたびカードの山にうずめ
何度も何度もカードを切って。

日当りの悪い北向きの部屋は
落ちていく夕暮の日のように
この世という巨大な生き物の
生気という生気を奪っていく。
冷めた生き殻が地面に転がり
生き残ったものたちはそれを
踏まないようにと歩いている。
そんな人生を焦がした二人が
辛気くさい顔をして座り込み
ジーっと一点を見つめている。

その人はリュックサックを背負い
森の中を静かに歩いている。
いつもいつも本を読みながら
爽やかな風に誘われ進んでいる。

時に妖精の道を見つけると
静かに立ち止まり、本を閉じて
ゆっくりぼくを手招きする。
ぼくは緊張しながらそこに向かう。

いつもいつもそうなんだ。だけど
その人が見つける妖精の通う
その道はいつも本物で、ちゃんと
妖精の住む村に繋がっているんだ。

その人はリュックサックを背負い
森の中を静かに歩いている。
いつもいつも本を読みながら
爽やかな風に誘われ進んでいる。

朝起きたらその日一日の
テーマがあって、今日は
そういう一日なんだという
大まかなことは決まっている。
あとはそれをどういう風に
料理していくかなんだ。

例えばぼくが言葉を選んだとする。
それが具材だ。あとはあなたが
それを料理していくわけだが、
それはけっこう苦痛な仕事だと思う。
だけどあなたはやらなきゃならない。
あなたしか出来ないことなんだからね。

いやいやぼくは別にあなたに
強要しているのではないんだ。
無理を言っているのではないんだ。
ぼくの具材の意味がわかったら
あとは簡単なことなんだからね。
はい、ではお願いしますね。

朝から頭が冴えているので
今日は山に行きませんか。
冴えた頭で山に登れば
今日まで解決出来なかった
様々なパズルが一気に解ける
そんな気がするのです。

車はわたしが出しましょう。
峠の茶屋に車を置き
そこから歩いて登りましょう。
四合目あたりがいいですね。
それほどきつくない距離ですし
それほど危険な道もない。

何よりもそこからの見晴らしは
とてもいいものですから。
そこで時間を休めましょう。
名物足湯にも浸かりましょう。
そしてパズルを解きましょう。
一気にパズルを解きましょう。

例えばむかし愛した女性が
すっかりおばさんになっていて
その存在から目を背けたくなるような
その現実を忘れたくなるような
そんな悲惨な状況にあったとしても
その女性の想い出の一字一句を
決してぼくは忘れないだろう。

輝いていた健康的な肌の色
透き通っていた歯の白さ
心地よかった声の響き、
そういうものがしっかりと
ぼくの心にこびりついている。
だから何があっても、想い出の
一字一句を忘れないだろう。

夜口笛を吹くと
ヘビがやって来るという。
口笛の音をカエルの鳴き声と
ヘビが勘違いするのだという。
まあ、自然が多く残っている
地域ならともかく、周囲の
地面がすべてアスファルトに
覆われているような街中や
背の高い団地やマンションが
林立している場所には
さすがにヘビもやって来ない。

ところがまれに例外もある。
数年前のぼくの実家での話だ。
実家は街中にある団地の三階で
普段は鳥とか虫など宙を舞う
生き物くらいしか家の中に
入ることは出来ない。
そういう場所にひょっこり
ヘビが顔を見せたのだ。

ヘビは仕掛けておいた
ゴキブリホイホイに貼り付いていた。
その前にヤモリがいたからそれを追って
ヘビは三階までやってきたと思われる。
周りには団地の三階に飛び移れる
そんな高い樹木はない。ということは
そのヘビは地面から団地の壁を
這い上がってきたのだろう。

つまりヘビは街中のビルの上へも
這い上がることが出来るということだ。
その事件があって以来
ぼくは夜に口笛を吹いていない。
だって夜中に遭遇すると嫌でしょう。

あることをするとお金が貰える
という夢を見た。ぼくの場合
その金額は三億円なのだという。
その『あること』というのが
とても簡単なことで
「本当にそれをするだけで
三億もらえるんですか?」と
興奮したぼくは大声で尋ねた。
そのことをぼくに教えてくれた人は
ぼくの問いかけに静かにうなずき
「目が覚めたら、さっそくそれを
やってみなさい」と告げたのだった。

そこで夢が覚めた。だが
その余韻はしばらく続いて
この上もない至福感に包まれた。
その至福感の中で、無垢なぼくは
今日は絶対にいいことがあると
腹の底から確信したのだった。

ところがだ。目が覚めたぼくは
その『あること』が何であるのかを
忘れてしまったのだ。いや、
うっすらとは覚えているのだが
思い出そうとすればするだけ
記憶が遠のいてしまう。

とはいえ夢ではあんなに簡単ことだと
思えたことだから、きっとそのヒントは
ぼくの潜在意識の中に隠れているはずだ。
ちょっとそれを探す旅をしてみよう。
決して無駄な旅ではないはずだ。
だって、だって三億円なんだから。

おやおや、
あなたの右手は汚いですね。
えらく煤けているじゃないですか。
しかも傷だらけになっているし。
おまけに家の中はホコリだらけだ。

さてさて
気になっているのは料理なんです。
ホコリ舞う状況で食材広げて
汚れた右手を洗いもせずに
あなたは料理をやっている。

ほらほら
冷蔵庫からはみ出したお肉には
綿ボコリがついている。
床に放置している野菜には
小さな虫が這っている。

おやおや
あなたの右手は本当に汚いですね。
何で本気に洗わないのですか。
そうすれば煤も取れるし傷も治る。
料理の腕もきっと上るに違いない。

このページのトップヘ