吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2013年02月

わたしは風の流れを気にしている
嫁さんは腰の痛みを気にしている
友人は外れた銀歯を気にしている
知人は鼻の違和感を気にしている
隣人は空いた部屋を気にしている
イヌは女性の香水を気にしている
ネコはタバコの煙を気にしている
カラスは動かぬ車を気にしている
ハトは首筋の凝りを気にしている
スズメは喉の調子を気にしている
地底人は天の歪みを気にしている
宇宙人は人事異動を気にしている
浮遊霊は解体工事を気にしている
地縛霊は道路工事を気にしている
科学者は足の臭いを気にしている
神父は聖母の処女を気にしている
神主は大凶の行方を気にしている
和尚は檀家の寄付を気にしている

今日はいったい寒いのだろうか。
今日はいったい暖かいのだろうか。
それともどうでもいいのだろうか。
以前なら早春の弱い日差しの中に
かすかな温もりを感じてはそれを
喜びに変えていたものだ。だけど
今年はこの季節の微妙な気候に
ぼくは敏感ではなくなっている。

そんな春の訪れを喜ぶよりも
とにかく杉の花粉やら黄砂やら
さらにはPM2.5が気にかかる。
おまけに南西方面の海の中に
愛国心がうずいている。
『久方の光かすみし春の日に
しづ心なく船の来るらむ』
二月ももうすぐ終わりだ。

人生の別名を大丈夫という。
だから路頭に迷ったときも
辛い辛いと嘆くときも
苦しみを覚えるときも
行き詰まりを感じるときも
生きるのが嫌になるときも
好きな人たちと別れるときも
嫌いな人たちと会うときも
この上もなく悲しいときも
もう駄目だと思うときも
すべては大丈夫の中にある。
だから乗り越えられるんだ。

さようなら、さようなら
現世のあなたにさようなら
来世にまた会いましょう。
顔や形は変わっても
たとえ生命体は違っても
私はあなたを知るでしょう。
そしてあなたと生きるでしょう。
さようなら、さようなら
来世のどこかで会いましょう。
前世の知己として会いましょう。

楽しい時には楽しい酒を飲みましょう。
悲しい時にも楽しい酒を飲みましょう。
つらい時にも楽しい酒を飲みましょう。
苦しい時にも楽しい酒を飲みましょう。
嫌な上司と飲む時も楽しい酒を飲みましょう。
独りぼっちで飲む時も楽しい酒を飲みましょう。
リストラ受けた時だって楽しい酒を飲みましょう。
すべてが裏目に出る時も楽しい酒を飲みましょう。
楽しい酒でなかったら旨い酒にならないし
旨い酒でなかったら体にだって良くはない。
とにもかくにも楽しい酒を飲みましょう。
明るく笑って楽しい酒を飲みましょう。

暖房器具などで
お腹を温めると
血行が良くなるのか
なぜか消化が早くなる。
食べてもすぐに腹が減り
気分が悪くなってしまうのは
きっときっとそのせいだ。
おかげで胃薬はすぐに減り
おかげで薬屋は儲かって
年中笑いが止まらない。
彼らは一人で笑っている。
しかしそれはそれで
いいことじゃないか。
いちおうこの国を
治しているんだから。

一昨日の朝、起きてみると
左目から目ヤニが出ていて
目の開きが妙に悪く
えらく見づらかった。
そのことを嫁さんに話したら
嫁さんもその何日か前に
目ヤニが出たらしく
やはり目の開きが悪かったらしい。
同じく左目からということだった。

昨日、職場でのこと。
ある人が「朝起きたら
目ヤニが出ていてね」と言う。
見てみるとなるほど
左目が充血しているではないか。
いったいこれは何なのか。
はやり目なのだろうか。
花粉もしくはPM2.5のせいか。
しかしどうして皆左目なのだろうか。

晴れた日に昼寝をすると
寝起きがとても気持ちいい。
朝がずっと続いているようで。
いいことばかりありそうで。
春の風に吹かれているようで。
むかしの恋人が現れそうで。
すべての病気が治りそうで。
思いもしない収入がありそうで。
すべての悩みから解放されそうで。

『この幸せが長く続きますように』
ぼくは瞑想の彼方で祈っている。

毎日毎日この大宇宙のエンジンは快調で
ぼくらはいつも振り回されている。
何かというと無理難題をふっかけてきて
それをこなせなければ一からやり直しだ。
いったいぼくらに何をさせたいのだろう。
いったいどこに向かわせているのだろう。
ただ一つわかっていることは、それを
信じていれば幸せになるということだ。
だからぼくらは大宇宙を絶対だと信じきり
人生の何から何までを大宇宙にまかせきり
下手な解釈など一切せずに歩いて行くのだ。

若い頃はよく愛だの恋だのを
歌ったり詩にしたりしていたものだ。
そうすることによって悶々とした
日々の憂さを晴らしていたのだ。
ところが最近は愛だの恋だのではなく
人生とか生活といったちょっと堅めの
歌や詩に走ることが多くなっている。
愛だの恋だのに走らなくなったのは
本当の愛だの恋だのを経験するうちに
そういうことを歌や詩にすることに
照れを感じるようになったからだ
と昨年くらいまでぼくは思っていた。

それは違うのかもしれない。と
考えるようになったのは今年のことで
愛だの恋だのに走るぼくの心を
くすぐる女性が現れなくなっている
という現実に気づかされたのだ。
とにかく気が遠くなるほど長い時間
愛だの恋だのからぼくは遠ざかっている。

目が覚めてからぼくは
大きく息を吸い込んで
あたりを見回した。
無数の白い仲間たちが
目の痛い沼地にうごめいている。
『ここはどこなんだろう。前にも
見たことのある風景なんだが』

徐々にこの世に慣れてくると
何となくにおいというものを
ぼくは感じるようになった。
ずっと前に嗅いだことのある
実に郷愁の漂うにおいだ。
『ここはどこなんだろう。前にも
住んでいたことがある場所なんだが』

それからしばらく経ってのこと。
何となく背中がムズムズしてきた。
その背中をねじった時だった。
ぼくは宙に浮いてしまったのだ。
羽音を立てながらぼくは思った。
『そうだ、この風景だ。これこそ
ぼくが何度も夢見た風景だ』

ぼくがこの沼地から出ていったのは
ある雨の日の朝のことだった。
以来二本足の大きな生物との
闘いの毎日を繰り返している。
最近ようやく自分が何者であるかを
理解した。しかし、何でまたぼくは
ハエとして生まれてきたのだろう。

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