吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2012年11月

今日ある人と、
議論するようなことがあって
ちょっと感情的になってしまい
後味があまりよろしくない。
今も相手のことを思い出すたびに
怒りに似た感情がこみ上げてくる。
このままでいればおそらくは次回
その人と会った時に気まずさで
目を合わさないことになるだろう。

これじゃいかんな。決して
ぼくはいい人ではないんだから
このままその人にとっての悪役を
演じても別に構わないのだけど、
演じることは自然じゃないのだから
きっと精神的に疲れるに違いない。
ま、そのことは置いとくにしてもだ、
とりあえずこのままでいると
今日の寝つきが悪くなってしまう。

そこで考えたのだが、ひとつ
その人のことを面白いヤツと
捉えてみることにしようと思う。
意見が違うヤツは腹が立つものの
こちらにない考えを持っているから
面白いという理由からだ。
そう思っていれば、寝るまでに
その人がおかしくておかしくて
たまらなくなってくるに違いない。

あの人は今でも魅力ある女性だ。
かわいくて明るくて健康で
さらに理知的で、機転も利いて
昔から何も変わっていない。
ぼくにとっての理想の女性なのだ。

ただ昔に比べるとかなり痩せていて
肌の張りがほとんどなくなっている。
そのへんはぼくもそうなのだが、
その痩せ方に余裕がないというか
すでに皺の域にまで達しているのだ。

とはいうものの、あの人はやっぱり
卒業写真のあの人なのである。
ユーミンの歌のごとく
ぼくの青春そのものなのである。
遠くで叱ってくれる人なのである。

だけど叱る時はあの皺なんだな。
となればちょっと趣が変わってくる。
近所の婆さんに叱られている気分になって
ついヘラヘラ笑ってしまうはずだ。
でも卒業写真のあの人なんだよね。

ようやく
免許の更新に行ってきた。
気にしていた視力測定も
無事に通過することが出来た。
しかし完全にクッキリと
見えていたわけではない。
『C』の隙間はわかるんだけど
やはりぼやけているんだな。
とにかく免許の更新は終わった。

帰る道々
次の更新のことを考えていた。
その時はメガネが必要だろうかとか、
いや、その頃には老眼が入っていて
遠くが見えているかもしれないとか。
しかしいくら遠くが見えたとしても
それはそれで違うメガネが必要になる。
やはりメガネをかけるのは嫌だな。
次の更新は還暦だ。何もなければだけど。

選挙になると、この道の
両側にはポスターが貼られて
季節の色を隠してしまう。
元々周りのビルが起こす
風でいっぱいになる通りだから、
選挙が終わらないうちにポスターは
ひとりでに剥がれ落ちてしまって
選挙当日は半分位しか残っていない。
だからといって、ポスターが
残った人が当選して、ポスターが
剥がれた人が落選するわけではない。
当選する人はやっぱり当選するし
落選する人はやっぱり落選するし。

「選挙通り、人は通わず
選挙通り、風ばかり吹く」
ぼくはこの道を歩く時、こんな
すかしっ屁みたいな言葉に曲をつけ
口の中で転がしながら歌っている。

そのことは黙っておきましょう。
そのことは黙っておきましょう。
今さらそんなことを言ったって
何が変わるわけではないですし。
もしかしたらあの頃すでにあの人は
気づいていたかも知れないですし。
こんなメモ書き程度のものでも
読んでいけばわかることですし。
もしかしたら口にすることで
迷惑がかかるかもしれないですし。
後ろ指さされるのは嫌ですし。
人間関係を壊すのも嫌ですし。
心のない言葉を吐くのは嫌ですし。
絶対に自分が許せませんし。
だから黙っておきましょう。
ずっと秘密にしておきましょう。
出来たら最後の就寝の場となる
お墓まで持って行きましょう。

なぜか成績が上がりそうな気がして
やたらと参考書を買い込んだ時期があった。
それまでマンガを買っていたこづかいをつぎ込んで
グリップだの馬のマークだのを買い揃えたのだが
結局どれも最初の数ページを開いただけで
あとは机の上を飾っていただけにすぎなかった。

考えてみるとそれらは、
必要に迫られて買ったのではなく
テレビのCMで成績が
良くなるようなことを言っていたので
つい興味本位で手を出しただけだったんだ。
その証拠にぼくは成績を良くしようとして
興味本位に超能力の本まで買っている。
当然興味本位で買った本が
血となり肉となるわけもなく
成績が良くなるようなことはなかった。

よくよく考えてみれば、
現在書棚に並んでいる数多くの本も
興味本位で買ったものがほとんどで、
血となり肉となった本なんてありはしない。
だからぼくは進歩してないんだ。

ぼくが高校一年生の頃の話だ。
数学の授業中に担当の先生が突然
教室を抜け出したことがあった。
何も言わずに出ていったものだから
教室内はちょっとガヤついたのだが、
十分ほどして先生は戻ってきたので、
大きな騒ぎにはならず、職員室に忘れ物でも
取りに行ってきたんだろうということになった。

ところが先生はそれ以来頻繁に教室を
抜け出すようになったのだ。
うちのクラスだけではなく
他のクラスでも同じことをやっていたようで
これはおかしいということになった。
そのことを先生に聞くわけにもいかないし、
かといって、こちらが教室を抜け出して
先生を付けていくわけにもいかないし。

そういうことが何度か続いたある日、
例のごとく先生は教室を抜け出し
しばらくしてから戻ってきた。
ところが、出ていった時と様子が違う。
ネクタイの先が左の肩に乗っていたのだ。
それを見てぼくらは合点した。
「先生はトイレにしばらく入っていたんだ」
なるほどほのかにニオイが漂っていた。

中学生の頃、ぼくはいつも
川向こうにある曇天の
工場街を眺めていた。
工場街とこの街を隔てた川は
当時は壊れた状態で、その街の
姿を映し出してはくれなかった。
だからよけいにぼくの目に工場街の
真実が映ったのだろう。
むき出しになった幾何学的な建物群。
鼻の奥に突き刺さる薬品の臭い。
天地を引き裂く激しい音、音、音。
人影のない錆びた工場だけが
ぼくの目には映っていた。

二十メートルほどの橋を渡れば
簡単に行ける場所なのだが、
なぜかぼくには別世界に思えて
そこに行く勇気が湧かなかった。
きっとそのせいなのだろう、
どうやっても川向こうに
たどり着けない夢をぼくは
何度も何度も見てきている。

先生から拳固でこめかみを
グリグリされるのが嫌だった。
だからぼくらは嘘つくことを覚え
反射的に言い訳することを覚えた。
先生はそれを見抜いていた。
一度目は騙されたふリをしていたが、
二度目は見逃してくれなかった。
そして前にも増したこめかみグリグリを
味わうことになるのだった。
とはいえぼくらも馬鹿ではない。
今度は落ち度を見せまいと
とにかくその先生の前では
真面目に振る舞うことになる。
先生はそんな姑息なぼくらを見て
フフンと鼻で笑っていたのだった。
以来こめかみグリグリの記憶はない。

鉄腕アトムを見終わった後
ぼくは布団の中でクルクル、
クルクルと世の中が
回っているのを感じたんだ。
気がつけば東京五輪をやっていて、
気がつけば大阪万博が終わっていて、
わけのわからないまま時代が進み、
その流れの中で老若男女は踊らされ、
政権交代なる噴飯物の
茶番劇にまで付き合わされ、
国土は乱れ、他国になめられ、
今ここにいる。ここにいる・・?

ああ、それもこれも何もかも
鉄腕アトムを見終わった後
布団に入ってから始まったことだ。
願わくはこれが夢であることを。

何でこの世に生まれてきたかって?
簡単なことだよ、そんなこと。
ビートルズのラバー・ソウルという
レコードを買いたかったからさ。
ただそれだけなんだよ。
あとはそれを納得いくまで聞いて
次の人生に向かうんだ。

えっ、思想?哲学?宗教だって?
この人生に限って言えばそんなこと
どうでもいいことなんだよ。
ラバー・ソウルを買うことが出来、
そしてそれが人生の目的だと
位置づけることが出来たら
現世はそれで充分なんだよ。

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