吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2009年07月

車を運転していて怖いのは、
夜の歩行者の飛び出しだ。
子供や年寄りが飛び出すのではない。
ウォーキングに励む中年男女だ。
自分のペースを乱されるのが嫌なのか、
青になるのを待とうとしない。
これなら違反にならないと、
横断歩道の手前を歩く奴もいる。
いくら歩行者が悪くても、
撥ねたら運転者の責任だ。
運動だけが健康の条件ではない。
安全も健康の条件なのだ。
青になるのが待てないのなら、
ウォーキングなんてやめてしまえ。
おまえら一生高血圧の、
醜く肥えたブタでいろ!
ブーブー…

この間大雨をもたらした雲の軍団が、
ゆっくりと南の方へ流れていく。
手に届くような低い所を、
まるで人を馬鹿にしたように、
ゆっくりゆっくりと流れていく。
あの雲の軍団を、
掃除機で吸い取ることが出来たら、
どんなに気が晴れることだろう。
ま、そんなことはどうでもいいけど、
もう二度とここに戻ってくるな。
そして今年の夏を返してくれ。

うちの近くのお寺では、
朝晩六時が近づくと、
ゴーンゴーンと鐘が鳴る。
いつもそれを聴くたびに、
一休さんを思い出す。
ゴーンゴーンと思い出す。
あわてない、あわてない…

「めっきり涼しくなりましたね」
まさかこの時期に
この言葉を聞くとは思わなかった。
昼間はまだ暑く、
日が射せば汗ばむのだけど、
夕方にはいつも雨が降って、
一気に気温を下げてしまう。
すると辺りはすっかり秋のにおいで、
ついつい「秋刀魚で一杯」などという
季節外れの映像が、
頭の中を駆け巡る。
おいおい目を覚ませ!
今はまだ土用なんだぞ!
ウナギなんだぞ!
このおかしな気象を知っているのか、
空を赤トンボが舞っている。

もしかしたら冷夏なのかもしれないが、
一年中で一番暑い季節なのは間違いない。
だけどいくら暑いからといったって、
いくらのどが渇くからといったって、
空の上はアイスクリームではないのだから、
ペロペロなめるのは勘弁してほしい。
いやしくよだれを垂らすので、
本当に迷惑している。

三年後に金環日食が見えて、
二十六年後にまた皆既日食が見えて…。
ぼくは理科が苦手なのでよくわからないが、
これってみんな計算で割り出すんだったな。
大昔の人がそれを知ったら、
きっと大騒ぎしたことだろう。
なぜなら彼らにとっての天変地異は、
王の怒り、ひいて神の怒りであるからだ。
もし計算で割り出せますよなんて言ってしまうと、
そういう風に民衆を洗脳した王の権威は保てないし、
それを巧みに演出した占い師の地位も保てない。

とはいえ知っていれば今回のように、
天体ショーを楽しむための新たな商売も生まれるわけで、
そうなると王も少なからず利益を得られるわけで、
神を背景にしなくても財を背景にして権威を保てるから、
面倒くさい祭祀をする必要もなくなるし、
面倒くさい祭祀をする必要がなくなるから、
うさんくさい占い師などを周りに侍らす必要もなくなるし、
実に爽快な気分で日々を過ごせることだろう。
王にとってはそれこそがロマンだ。

三年後に金環日食が見えて、
二十六年後にまた皆既日食が見えて…。
ぼくは理科が苦手なのでよくわからないが、
これってみんな計算で割り出すんだったな。
いにしえの占い師が亀の甲羅を焼き、
命をかけて不完全な結果を求めていたのに、
今はその知識さえあれば小学生だって、
電卓ひとつで完全な結果を求められるのだ。

しかし何年何月何日何時何分何秒なんて、
宇宙の時間からすれば偶然の範疇じゃないか。
そんな偶然を電卓で計算できるんだから、
これは実にすごいことだ。
そこまでやれるんだったら、
何年何月何日何時何分何秒に運命の人に出会い、
何年何月何日何時何分何秒に結婚して、
何年何月何日何時何分何秒にこの世を去る、
なんてことが計算できても何の不思議はない。

だけどいまだにそれはできない。
だから人は今でも星やカードや手相などを、
いにしえの亀の甲羅代わりに使い、
不完全な結果を求めているのだ。
しかしそれはそれでいいんだと思う。
人生がその瞬間までわからないのは、
きっとわからないほうがいいからだ。
だからこそ人生はロマンなのだ。

見おろせば遙かな海が見える
南の国にぼくはやってきた
風にのって降りてみようか
もっと空を飛んでいようか

 この街はパイナップル通り
 見れば街は人だかり
 うん、一つ買ってみようかな
 だけどそれほどお金もないしね

汗が流れてひと泳ぎ
やけどの砂で甲羅干し

 次から次へと流れる波に
 人、人、人が乗ってくる
 初めて見おろす南の国が
 ぼくにはとても懐かしくて

息をつく暇もなく飛び回ったよ
旅の終りには汽車に乗ってね


南の旅

午後から降り出した雨は、
一変波打つような豪雨となり、
二十メートルより先の世界を、
完全に隠してしまった。
そこから徐行運転が始まった。
おまけに道路は水浸しで、
水はけの悪い幹線は、
流れの急な川へと変貌した。
ドッドッドッドッドッ、
水の中を車で進むのは、
あまり心地よいものではない。
エンジンやブレーキが心配で、
気持ちの昂ぶりが心配で、
操作ミスが心配で、
何よりも、
ドライバー同士の思いやりが心配だ。
ああ、天上界はいつまで
政権争いを続けるつもりだろう。

いったいオレは何のために生まれてきたんだろう。
気がついた時には卵の中にいて、
そこから必死に這い出した。
初めて土に身をさらした時は痛かったけど、
それもじきに慣れていった。
食べ物には困らなかったな。
そこにあるもの何でも口の中に入れていったから、
腹の減る暇はなかったよ。
それでブクブクと肥えていったんだ。
土の生活は何年続いたんだろう?
そこには天敵もいたけれど、
今となってはいい思い出だ。

ついこの間のことだった。
なぜか太陽が見たくなったんだ。
そう思うと息が苦しくなってきた。
そこで必死に地上に這い上がっていったんだ。
生まれて初めて見る太陽にまぶしさをおぼえ、
生まれて初めて見る樹木に心地よさを感じた。
生まれて初めての地上にとにかくオレは興奮した。
ところがそれからしばらくすると、
だんだん体が固まっていった。
そしてそのまま動けなくなった。

動けない時間はけっこう長かった。
オレは卵の中にいた時のことを思い出して、
その間ずっともがいていた。
それがよかったみたいで、
体に貼り付いていたものが剥がれて、
急に体が軽くなった。
そのとたんバシッという音とともに体が破れ、
光が差し込んできた。

やっとの思いで体から這い出すと、
なぜか腹回りがスースーする。
よく見ると足が生えているではないか。
おまけに背中がむずがゆい。
そこで体を揺すってみると、
あれあれ宙に浮いている。
いったい何が起こったんだろうと、
木に止まって考えた。
するとお尻が細かく震えだし、
わけのわからぬ音が出るんだ。

今度は音との闘いだ。
とにかく無意識に音が出るもんだから、
もうどうしようもない。
そしてその音が納まらぬままに、
今日という日を迎えた。
その音を聞いて女がやってきた。
そしてしきりにオレを誘惑する。
えっ、なんだこの気持ちは!?
オレは無性にその女が欲しくなった。
女が欲しい、女が欲しい、女が欲しい!!

…ことを終えてオレは今、
地面の上をのたうち回っている。
何度羽を動かしても飛べないんだ。
オレのそばを人や犬が歩いている。
もう死ぬのかなあ…?
いったいオレは何のために生まれてきたんだろう。

高校三年の夏休み、
ぼくらはドラムのセットを抱え、
田んぼのあぜ道を歩いていた。
空には一片の雲もなく、
午後の日差しが頭をめがけ、
容赦無しに降り注ぐ。
ジージーワシワシ樹木の蝉と、
ギーギーギッチョン草むらの虫が、
だらしい暑さのリズムを刻む。
ドラムを持つ手はふさがって、
顔の汗さえぬぐえない。
風もないから汗は乾かず、
ポタリポタリとしたたり落ちる。
気がつきゃ汗はスティックよろしく、
スネアの腹を叩いてる。
ツマランタタンと叩いてる。
卒業後の進路のこととか、
それを踏まえた勉強だとか、
そんなものには関心もなく、
ぼくらはだらしくツマランタタンと、
田んぼの中を歩いていた。


※だらしい…北九州方面の方言で、「だるい」とか「かったるい」とかいう意味。

このページのトップヘ