吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

2008年03月

ゆっくりゆっくり、
電車はホームに入ってきた。
そこで我慢してなかったら、
ぼくはこの電車に
乗ることは出来なかっただろう。
一両目の一番前の指定席。
電車に乗り込んでからは速かった。
これまでの遅れを取り戻すかのように、
電車は一気に発進した。

結論からいえば
血液型で人を見てしまうことが
この国の滑稽さで
そういう国民だと
見られていることに気づいていない。
だからそういう思い込みはやめなさい
という一部の人たちは異端視される。
だけどその異端児たちも
素直に異端児だと受け入れてしまうことが
この国の血液型だ。

故知らず私は何かを期待している。
胸の中がワクワクしている。
心の底がウキウキしている。
自然笑みが出る。
周りの人は不思議な顔をする。
おかしな奴だと軽蔑している。
思い出し笑いして気味の悪い奴だと、
目をそらす者もいる。
だけど故知らず私の胸の中は
期待でいっぱいなのだ。
うれしくてたまらないのだ。
そこでまた笑みを浮かべる。
するといよいよ気味悪がって
誰も寄りつこうとしなくなる。
一人帰り二人帰りする。
あとには誰も残らない。
そして私一人になってしまう。
だけど私はまだ期待に震えている。
それがどうしてだかわからない。
わからないが笑みを浮かべている。

歌のネズミが着飾って
ブルースを歌ってる
客もまばらなステージで
ブルースを歌っている

息も絶え絶えに歌うので
客は聞きづらそうな顔している
ギターと歌が合わないので
客は聞きづらそうな顔している

それでも少しは拍手もある
薄汚れた倉庫の中で
それでも少しは拍手もある
港の近くなので聞こえないけど

歌のネズミが着飾って
ブルースを歌ってる
誰にも聞こえない小さな声で
さびしいブルースを歌ってる

心の扉を開けてごらんなさい。
おそらく無数とも思えるほどの、
私という民族が住んでいるのです。
その中の一人一人が時を得て、
主役として現れては消えていく。
この入れ替わり立ち替わりの繰り返しが、
私という民族の歴史を刻んでいるのです。
やがて私という民族が最後の一人になった時、
私という民族はその一人を結論として、
滅んでいくのです。

うっすらと月が出ている。
ひとつふたつの言葉なんか、
簡単に忘れさせる夜だ。
大きな月だ。
大きな月にうっすらと雲がかかって、
今はぼくらの影を映さない。
だけどこの雲もいつかは晴れる時が来る。
ほら、秋から冬にかけての星座群が、
あんなにまぶしく光っているんだから。
ふふ、うっすらと月が出ている。

古い酒樽に無数の割れ目が入り、
感情の酒がこぼれ出している。
かなり前から起きていたのだろう、
酔いはかなり回っているようだ。
足下はふらついているし、
口もうまくまめらない。
いつ吐いてもおかしくない状態で、
ぼくは人生を漂っている。

この古い家の主は昨日から、
胃けいれんを起こして七転八倒している。
ぼくはこれをチャンスだと思い、
家移りを考えることにした。

家主の大騒ぎが静まるのを待って、
そっと家を抜け出してやるんだ。
笑ってすませられるような家じゃなかったんだから、
黙ってここを去ったって別に気にすることもない。

住まいといえばここしかないような気がしていたけど、
それが間違いだったようだ。
きっと今まで夢を見ていたんだ。
そう、錯覚していたんだよ。

寂しさだってあったんだよ。
ここでは友だちも出来ない苦痛もあってね。
時々ここに住んでいて怖ろしくもなったし。
ま、いいや、それもあと少しのことなんだから。

朝起きましてね、コーヒーを入れたんです。
わたしゃあまり胃が強くないほうなもんで、
ミルクをたっぷり入れましてね、
逆に砂糖は少なめにしたんです。

ちょっと寝不足もたたってか、
今日はどうもうまくない。
それでもせっかく入れたんだからって、
音を立てて飲み干しましたよ。

ほーら湯気が出る、湯気が出る。
タバコといっしょに湯気が出る。
頭も便乗湯気が出る。
空の中からも湯気が出る。

おや、あれはもやでしたよね。
朝もやか、いやいい陽気になりまして、
わたしゃ上着を脱いで外を歩く。
ついでに雪駄も外を歩く。

雪は残り花は遅れていた。
しかし彼らは知り尽くしていた。
一つの旅が終わったことを。

みんなどこでもいいから吹き飛びたいと言った。
というのも彼らの行くところはなかったから。
一つの旅が終わった時に。

 薄暗い空から雨も降り始めていた。
 でもちょっと見回すと晴れ間も見えていた。

誰かが死んでもいいと言った。
でももう死ぬところもないだろう。
一つの旅が終わっているから。

何か一つ元気が欠けた。
大人たちは喜んだ。
一つの旅が終わっていた。

 薄暗い空から雨も降り始めていた。
 でもちょっと見回すと晴れ間も見えていた。

雪は残り花は遅れていた。
しかし彼らは知り尽くしていた。
一つの旅が終わったことを。


卒業

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