吹く風ねっと

一生は未来の記憶を散りばめた一本の道。人生は未来の記憶をひろいながら歩く旅。

1,
 P君がある人に今回の長崎行きのことを相談した時の会話。
「今回の台風は、通り過ぎた後も、吹き返しが凄いらしいよ」
「吹き返しって何ですか?」
「えっ、あんた台風のこと知っとると?」
「いえ、勉強してないっす」

2,
 この間、ぼくが仕事をしている最中、P君が困った顔をしてぼくに聞いて来た。
「しんたさん、午前0時は夜中の12時のことですか?」
「あんた、そんなこともわからんと?」
「ええ、勉強してないっす」

3,
「しんたさん、『しんみや』ってどこですか?」
「地名?それとも店の名前?」
「地名です」
「どういう字?」
「こうです」
 と言って、『新宮』と書いた。
「・・それは『しんみや』とは読まん。『しんぐう』と読む」
「ああ、『しんぐう』っていうんですか」
「『しんぐう』って、聞いたことないと?」
「ええ、勉強してないっす」
 ※『新宮』・・福岡県糟屋郡新宮町。福岡市の隣りにある町。『新宮中央』や『筑前新宮(現在の福岡工業大前)』というJRの駅があったり、九州唯一のIKEAがあったり、長渕剛がCM曲を歌う『新宮霊園』があったりするので、福岡県民なら勉強しなくても知っているはずだ。『しんみや』なんて読み方をするのは、漢字を知らない小学生以下を除いては、P君くらいしかいないだろう。東京に住んでいる人が、『新宿』を『しんやど』と読むのと同じことなんだから。

4,はずだ
 結局、P君は予定通り7日に長崎に行ったという。こちらを出発したのは夜だったらしい。
「長崎市に着いた時には、風吹いてませんでしたよ」
「そうなん。で、チャンポンとか食べたんね?」
「いや、食べませんでした。でも、ハンバーガーは食べました」
「え、あんた長崎市に行ったんやろ?」
「ええ行きましたよ。佐世保という所に」

 新型コロナウイルスのせいでやれてないことがある。
 まず、太宰府行き。毎年2月の梅の頃に太宰府天満宮に行くのが恒例になっているのだが、それがやれてない。今年の2月といえば新型コロナウイルスで世の中が騒ぎ出した頃だ。特にあの頃は中国からウイルスがやって来ると言われていたから、中国人観光客の多い太宰府を遠慮しておいたのだ。
 ニュースやワイドショーでは、現在の太宰府と言って、ガランとした天満宮を映し出しているけど、実際はどうなっているんだろう。出来たら、今年中に一度は参拝しておきたいのだが。

 密を避けるということで、宗像大社にも行ってない。ここは近場なので、毎月一回のペースで行っているのだが、今年は初詣に行って以来、一度も足を運んでいない。10月1日からの『みあれ祭』、今年はどうなるのだろう。ホームページでは、やるようなことを書いてはいるが。

 昨年末、ぼくと嫁さんとヒロミちゃん(嫁さんの友だち)の三人で他県にドライブに行こう、と約束していたのだが、まだ行ってない。緊急事態宣言が明けてから「そろそろ行こうか」と言っていたのだが、「今、福岡の人間が県外に行ったら、『帰れ!』と言われて、石を投げられる」などという、まことしやかな噂が流れていたのでやめておいた。夏場、山や滝に行って、涼をとるのを楽しみにしていたのに。夏は終ってしまったじゃないか。
 しかし、あの噂は何だったんだろう。いつもコストコに行くと多くの県外ナンバーの車が駐まっているが、福岡の人間はその人たちに石を投げないし、「帰って下さい」なんて置き手紙もしないのに。

 嫁さんとの温泉旅行。今のマンションに移り住んでから、今年で22年になるが、その間一度も旅行に行ってないのだ。せっかく定額給付金が入ったので行きたかったのだが、例の噂に縛られて、行けないでいる。

【1】虫の声
 今回の台風、風の音に気を取られていたせいで気づかなかったのだが、暴風波浪注意報が出てから解除になる頃まで、虫の声が一切聞こえなかったな。もしかしたら虫たちもこの風を特別なものと感じて、避難していたのかもしれない。
 しかし草むらにいる虫はともかく、蝉はどこに避難していたんだろう。土に戻ったのだろうか、それとも風に舞っていたのだろうか。

【2】ピーンポーン
 夕方外出しようとした時、エレベーターに下の階の方が乗ってきた。これはチャンスと思ったぼくは、例の件を聞いてみた。
「夜中に『ピーンポーン』って鳴りませんでしたか?」
「鳴りました、鳴りました。ドアホンでしょ。えっ、お宅も鳴ったんですか?」
「ええ。風が強い日には、いつも鳴りますよ」
「そうなんですか。うちだけじゃなかったんだ」
「風のせいで鳴るみたいなんだけど、そうわかってても気味悪いですよね」
「そうそう、夜中に鳴るもんだから怖くて怖くて」
 やはり、うちのドアホンだけが、取り憑かれているのではなかった。
 
【3】危ない建物
 家の近くに、おそらく昭和に出来たであろう、二階建て二軒続きの小さな倉庫のような建物がある。右半分は何かの商売で使っているようで、いつも人が出入りしているが、左半分は使ってないようで、人の気配を感じない。
 日曜日の夕方、たまたまその前を歩いていたのだが、右半分は窓に養生テープを貼って台風対策をしていた。しかし、左半分はそのままになっていた。
「やっぱり、左は誰も利用してないんだな」
 そう思いながらその部屋を見ていた時、ぼくは左二階の窓の異変に気がついた。ガラスの上部が20センチほど割れているのだ。今回の台風は風が強いと聞いていたので、そのままにしておくと、その割れた所から風が侵入して窓が外れたり、悪くすれば勢いで建物全体持って行かれるかもしれない。
 しかし右半分には人がいるようだったし、そのへんはどうにかするんだろうと思って、ぼくはその場を離れた。

 さて台風が過ぎ、夕方下の階の人と「ピーンポーン」の話をした後に、その建物の前を通ったのだが、何とか建物は持って行かれてなくてすんだようだ。
「よかったな」
 と思って、左半分の二階を見てみた。
「えっ?」
 窓はちゃんとあるのだが、20センチほどの隙間が50センチほど(窓半分程度)に広がっているではないか。確実に建物の崩壊が始まっているのだ。これは何とかしないと、次の台風が来たら本当に持って行かれるだろう。「よけいなお世話」と思われるのが嫌なので言わないが、いったい右半分にいる人は、気づいているんだろうか。

 現在夜中の2時半です。いよいよこちら(北九州市)も暴風域に入ったようです。とにかく風の音が凄い。よくある「ビュー」という音じゃないのです。「ゴー」というジェット機が飛んでいるような風の音がベースにあって、それに呼応した樹木や電柱や電線や建物などが伴奏を鳴らし、街全体で大合奏をやっている感じです。それが不気味に、かつ心地よく聞こえております。

 うちから100メートル先にあるセブンイレブン、開店以来ずっと付いていた灯りが消えております。
 うちから200メートル先にあるファミリーマート、開店以来ずっと付いていた灯りはまだ付いております。

 さっき、この風に反応したドアホンが、「ピンポーン、ピンポーン」と力なしに鳴りました。のぞき穴を覗いても、きっと誰もいないでしょうが、もしそこで目が合ったり、アイスピックを刺されたりしたら嫌なので覗きません。まるで『恐怖新聞』の世界です。

 ぼくの家を含めて、まだ何軒かの家の人が起きているようです。みなさん、何やっているのでしょうね。ここはマンションや団地が多いから、うちと同じように「ピンポーン、ピンポーン」と鳴った家もあるでしょう。もしかしたら、それで目が覚めた人もいるかもしれませんね。怖いですよね。だって、丑三つ時ですから。

【12】
 平成10年結婚。ぼくは実家を出て今のマンションに移る。
 そこに移ってから2年間ほど、頭痛に悩まされる。前の家で色々な気配に悩まされていたぼくは、てっきりその気配の主を新しい家に連れてきたのかと思っていた。しかしそれは違っていた。ある本に、『新築の家やマンションの多くは、ホルムアルデヒドを含んだ接着剤を使っている』と書いてあった。それが原因で、頭痛や目がチカチカすることがあるということだ。それがわかってからおよそ半年の間、わが家は休みの日には窓を全開するようになった。

 ホルムアルデヒド騒ぎが一段落した頃から、ぼくの体はまたしても宙に浮くようになった。その力はアップしていて、自由に動けるようになったのだ。最初は玄関まで歩いて行った。回を追うにつれて更に力が増しているように思い、ドアに手を差し込んでみた。やはりそうだった。手はドアを突き抜けて、体ごと外に出てしまった。
「もしかしたら」
 と思い、そこ(マンションの6階)から飛んでみようとした。が、もしこれが霊のしわざだとしたら怖いので、やめておいた。
 とはいえ、出来るかも知れないことをしないのはもったいない。ということで、ドアを突抜けられるようになって何度目かに、それを実行してみた。
「おお!」
 ちゃんと飛べるじゃないか。目の下にぼくの車がある。隣の病院の屋根がある。コンビニの上を越えた。
 しかし、ちょっと変だ。確かにその位置にその建物があるのだが、微妙に風景が違うのだ。
「これはいったいどういうことなんだろう」
 と思った瞬間、ぼくは布団の中に戻っていた。夢を見ていたのかとも思ったが、夢を見ている時の少しぼやけた感覚とは違って、意識がハッキリしているのだ。

 それから毎晩のようにぼくは空を飛んだ。しかし風景は相変らず違っている。うちの前のマンションに向って行った時、煌々と灯りがついている一室が見えた。ところがそこは、そのマンションにはないはずのジムなのだ。しかも真夜中なのに、そこで何人もの人がトレーニングしている。さらにマンションがえらく高層の建物になっていた。そう、すべてが現実の姿とは違っているのだ。
「もしかしてこれは、自分の想像なのかもな。そんなくだらんことに寝る時間を費やしたくない」
 とぼくは思うようになった。
 さらに空を飛んだ後は、すごく疲れる。その疲れは朝になっても取れず、そのせいで通勤時に事故に遭いそうになるし、仕事上でミスを連発するし、だんだんぼくは飛ぶことに嫌気が差してきたのだった。

 そこでぼくは空を飛ぶことをやめることにした。そう決めてからしばらくの間、肉体から離脱しそうになったこともあったが、自分の意志でそれを止めた。おかげでだんだん離脱現象はなくなっていった。現在はまったく空を飛んでない。

「いったい長崎に何しに行くんね?」
「飛び込みです。長崎で飛び込める所、知りませんか?」
「知らんけど、その日なら海沿い走ってたら、波のほうから飛び込んできてくれるよ」
「そうなんですか」
「スリルあるよ」
「いいですねえ」
「でも、そうなったら、あんたとは二度と会えんやろうね」
「えっ、どういう意味ですか?」
「その日があんたの命日ということ」
 と言って、ぼくは合掌した。いったい、P君は台風のことどういうものと思っているのだろうか。まさかイベントか何かと勘違いしているのではなかろうか。
 ま、いいや。P君の連休明けである9日に、P君が来るかどうか、楽しみになってきた。

 昨日P君は、いろんな人に長崎行きを言ったらしく、「おまえはバカか」などと意見されていた。
 それを見てぼくは聞いてみた。
「長崎行き、どうするんね?」
「行こうかどうしようか迷ってます」
「あんた男やろ」
「えっ?」
「男は何ごともチャレンジやろ」
「行けということですか」
「あんたが、行きたいと言ったんやないね」
「まあ、そうですけど」
「行きたいんやろ?」
「ええ」
「じゃあ、行ってみたらいいやん。痛い思いをして、男は成長するんやけね。もし死んだら線香上げに行ってやるけ」

 数時間後、P君がぼくに聞いてきた。
「7日の夜8時に出るならいいですか?」
「あんたがそれでいいと思うなら、そうすればいいやん。何ごともチャレンジやけね。でも8時に出たら、着くの8日の朝になるよ」
「いや、高速使うから、もっと早く着くと思います」
「あんた、その日高速が使えると思っとるんね?」
「えっ、使えないんですか?ETCカードならありますよ」
 ・・・・・だめだこりゃ。

 昨日は休みで朝からずっと家の中にいたのだが、一日中エアコンがいらなかった。窓を開けておくと、優しく心地よい風が入ってきたのだ。しかし今日から数日間、この優しく心地よい風が、一変して怖い風になるらしい。台風10号だ。テレビでは今まで体験したことのない、凄い風だと言っていた。6日から8日にかけて長崎沖を通過するらしいから、こちら福岡のピークも同じ日になる。ということで、ぼくの周りも台風の話題で持ちきりなのだ。

 ところが、世の中がそんな台風騒ぎをやっているさなか、何も考えてない一人の青年がいた。新入社員のP君である。
 一昨日のこと、
「しんたさん、ぼく7日と8日が連休なんです」
「ふーん。よかったね。外に出らんですむやん」
「いや、せっかくの連休だから、友だちと車で遠出しようと思って」
「どこに行くん?」
「長崎です」
「えっ、あんたニュース見てないと?」
「ニュースくらい見てますよぉ」
「じゃあ、週末から台風が来るの知っとうよね」
「当然じゃないですか」
「どこに来るか知っとうと?」
「九州の左側でしょ」
「そう、長崎沖。そんな日に長崎に行くのは危ないやろ」
「でも、台風は海の上を通って行くんでしょ?」
「直撃よりも海を通った方が危ない、とテレビで言うとったやろ」
「そうなんてすか?」
 ちょうどその時、ニュースで台風の新情報を流していた。7日午後3時の台風の中心は対馬付近になっていた。それを見てP君、
「午後3時に中心がここなら大丈夫です」
「何で?」
「だって、ぼくたちが長崎に着くの、午後4時ですから」

 衣料品の購入は、いつも近くのユニクロか無印良品ですましている。価格はそこそこ安いし、特にブランドにこだわる性格ではないから、ぼくにはそういう店が打ってつけなのだ。

 だいたい季節の変わり目に購入しているので、そろそろその時期にさしかかるわけだが、ここで困ったことが起きた。実はいつも利用しているそのユニクロ、無印良品がともに閉店しているのだ。いや、潰れたのではない。改装しているのだ。(ユニクロの方は、少し離れた場所にあるスーパーの一角を間借りしてやっているが、狭すぎて、品数が少ない)

 ユニクロは店舗の建て替えで、今までよりも売場面積が広がるらしい。一方の無印良品の方も売場面積が今までの倍以上になるという。
 まあ、広くなるのはいいのだが、問題は改装オープンの時期だ。ユニクロはけっこう時間がかかるらしく、オープンは来年の4月ということだ。一方の無印良品の方はそこまで時間はかからないものの、それでもオープンは11月だという。

 ということで、今年の秋冬ものをどうしよう。エリア外に行けばどちらの店もあるのだが、車で30分以上もかかる場所なんて行きたくない。
 ネットで買うことも考えてはいるが、サイズが確認できないし、送料もかかってしまう。やっぱり衣料品は店舗で買うのが一番だと思う。
 今年はしまむらにしておこうかな。歩いてでも行けるし。

 この夏、『夏マスク』と銘打ったマスクを20種類近く買った。一応全種類試してみたのだが、一番しっくりいったのはユニクロの新型マスクで、今はそれをメインに使っている。他のマスクと比べるとヒンヤリ感は少ないものの、どのマスクよりも通気がよく、息苦しさを感じないのがいい。やはりマスクの良し悪しは呼吸のしやすさで決まるのだ。

 これで夏マスクは決まった。秋冬も無印良品のものをメインに使うと決めている。ということで、ぼくのマスク問題はこれで一段落したわけだ。この先、社会生活がマスクを必要とする限り、春夏はユニクロ、秋冬は無印良品で行こうと思っている。

 ところで、シャープさんのマスクはまだ当たらないんだけど、どうなっているんだろう?

【4】まぶたの腫れ
 最近の話。二週間ほど前、朝起きると左のまぶたが腫れていた。痛みもなく充血もしてなかったので、目は大丈夫だと思い、まぶたを氷で冷やすことにした。しばらくして腫れは少し引いた。一応気になったので、疲れ目用の目薬をさしておいた。
 翌日の朝、まぶたはまだ腫れているように見える。しかも今度はまぶたの縁が若干赤くなっている。そこで家にあった『ものもらい』用の目薬をさしておいた。ところが午後になってから、目ヤニが出るようになった。さらに目の縁も痒くなってきた。

 それからしばらくの間、少し良くなったり悪くなったりの状態が続く。
 朝起きると目の調子がいい。そこで何もせずに家を出ると、昼頃から痒みが出る。
 朝起きると少し充血している。そこで『ものもらい』用の目薬を使う。すると目ヤニが出る。
 朝起きると目ヤニで目が開けづらい。「抗菌=目ヤニ」が頭の中で公式となってしまったので、疲れ目用の目薬をさす。また充血する。
 どうしようもないので、目医者に行こうと思うのだが、まだ二十代後半の件を引きずっている。
 例の薬局に相談に行こうと考えたのだが、代替わりしていて、あの薬剤師はいないと聞いている。しかも場所は昔異国であった小倉なので、勤めに行っている頃ならともかく、今は生活圏内にない。同じ市内とはいえ、ぼくの住む地区からすれば辺鄙な場所なのである。

 さて、四日前の日曜日、いよいよ眼病が本格化してきた。痒み、充血、目ヤニの症状が同時に出たのだ。まぶたの腫れも再発したので、目は半分位しか開いてない。「こうなりゃ眼科だ」と思ったものの、「あっ、日曜日だった」ということで断念。
 何かいい方法がないものかと、スマホを見ていたら、そこに目薬のキャンペーンをやっていることが書いてあった。マツキヨである。何かの縁を感じたぼくは、
「行ってみよう」
 という気になり、近くのマツキヨまで歩いて行った。そこにはたくさんの目薬が置いてあった。疲れ目だのドライアイだのものもらいだのが中心だったのだが、一つだけぼくの症状(痒み、充血、目ヤニ)に、見合うものがあった。さっそく購入し、家に帰ってからそれをさしてみた。
 一分後、痒みが治まった。三分後、鏡を見ると、充血が少し治まっている。五分後、まぶたが軽くなった。ということで、眼病はかなり治まった。
 そして四日後の今、痒み、充血、目ヤニはすべて治まっている。ただ、眠気のせいで、まぶたが少し重い。

 ある年齢を過ぎた頃から、命の尊さというものを考えるようになった。おかげで小さな虫や、果ては植物にまで、慈悲心を持つようになっている。
 先日、実家がある団地の階段で、一匹のゴキブリを見つけた。以前なら躊躇なく踏み潰していたのだが、慈悲心に満たされたぼくはためらってしまい、その間にヤツは逃げてしまった。前に蚊を叩く時もそうだった。刺された怒りよりも、慈悲心がの方が勝ってしまい、その結果二度目の襲撃を受けたのだった。

 それについて思うことがある。ぼくのように歳をとってから慈悲心が芽生えてしまい、害虫を殺すのにためらう人間が大勢出てきたら、この世は害虫だらけになり、困ったことになる。だから殺虫剤のCMなどを利用して、
「蠅や蚊やゴキブリは悪の手先だから、退治しなければならない」
 と、ヒーローものを見て育ち、『わたしは正義の味方である』と思い込んでいる人たちに、訴えかけているのではないかと。

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